事業者レポート

“流さない”タクシーでコツコツ安定。地域に寄り添うタクシー営業所

今回お邪魔したのは
・鯱第一交通株式会社 東海営業所
・所在地:愛知県東海市東海町4‑70‑1
・設立:2002年4月頃
・従業員数:34名(2026年1月時点)

“製鉄のまち”として知られる愛知県東海市。訪れたのは、24時間体制で地域の足を支える「鯱第一交通株式会社 東海営業所」です。
「ここは “ちょっと特殊な”営業所ですよ」そう話す人事担当の森川さんと所長の岩間さんにお話を伺いました。

“待っていても仕事が入る”その強みとは?

タクシーといえば、街を流してお客様を探す。そんな光景がまず浮かびますよね。森川さん(以下敬称略)「うちは、いわゆる“流し営業”をする必要がほとんどないんです」思わず「それ、どうしてですか?」と聞き返したくなる言葉です。答えは意外にも、営業所の「立地」にありました。

東海営業所は、名鉄新日鉄前駅からほど近い場所にあり、周辺には日本製鉄(旧・新日鉄)名古屋製鉄所を中心とした臨海工業地帯が広がっています。

岩間「実は、日本製鉄さんの構内に配車室があり、私どもの従業員が常駐しています。構内移動や役員さんの送迎の際は、営業所に連絡が入るようになっているんです」広い構内を熟知したドライバーは頼りにされ、実質的に「いつものタクシー」として長く関係が続いているそうです。

さらに、名鉄太田川駅前での利用や、空港送迎、地域からの配車依頼も堅調。
「流さなくても、待っていれば仕事が入る」――そんな環境が、自然とできあがっているのだそうです。

▲「第一」と書かれた青い行灯(あんどん)(社名灯)が目印。ドライバーは社用車ではなくマイカーや公共交通機関で通勤。半田・常滑市在住が多いそう。

営業所の始まりは観光・貸切・送迎などを行う「鯱バス」。そのタクシー部門が、2000年代初頭に「第一交通産業グループ」へと引き継がれました。グループの方針で、地域との関係を大切にする姿勢は変わらず。そうして積み重ねてきた信頼が、継続的な依頼につながっているといいます。

森川「名古屋中心部では、流しや駅・ホテルでの待機、配車アプリ対応まで、全て行ってやっと売上が安定すると言われています。でもここは、立地に恵まれて“基本待機”でも仕事が入りやすい。全国的に見ても収入がかなり安定している“ちょっと特殊な”営業所なんです」

▲敷地内には車両がずらり。日本製鉄や構内の協力会社、そのご家族のリピーター、地元企業や市役所など多方面から依頼が入るそう

年齢もキャリアもバラバラ。でも、温かくて働きやすい

同営業所では、異業種からの転職や定年後の再就職が多く、岩間さんも森川さんも転職組だそうです。未経験スタートが多いからこそ生まれる「お互いに支え合う空気感」が、この職場の魅力だといいます。
岩間「業界用語が飛び交う職場だと、新人さんも萎縮しちゃいますよね。でもうちでは普通の会話が中心ですよ」年齢層は40~60代が多く70歳以上も数名在籍。最年少は25歳、最高齢は75歳だそう。(2026年1月取材時)
岩間「長く働いてくださる方が多いですね。最年少は女性ドライバー(2025年入社)で、最近は仕事が楽しいと話していて嬉しいですよ」

営業所内では、ドライバー同士和やかに声を掛け合う姿を見られ、新人さんものびのびと働いているというのも納得です。

岩間「女性ドライバーは3名いますが、女性が加わることで、職場の清潔感や身だしなみへの意識が自然と高まった印象です。接客や職場の空気感にも良い影響が出ていますね」
今後もさらに女性ドライバーの比率を高めていけたら、と森川さん。優良企業を目指し、女性が無理なく働ける環境づくりも進められているそうです。

24時間体制だと働き方も日勤・夜勤と不規則なのでは?
そう思い聞いてみると、同営業所では個人の希望をなるべく尊重したシフトが組まれていました。女性の場合は家庭や安全面を考慮し、なるべく夜勤を入れない働き方が選択されているようです。

岩間「収入重視の場合は、日本製鉄さんの稼働や終電の時間帯に合わせてシフトを作ります。『今月はもう少し頑張りたい』といった相談も受けますよ」

未経験からプロへ。焦らず成長できる環境

一人前のドライバーまでの道のりも気になるポイントです。
勤務に必須の「第二種運転免許」は、会社負担で取得可能(2026年現在は長野で合宿参加)。
法定研修を終え、乗務員証が発行されたら営業スタートです。

とはいえ、いきなり一人で任されることはありません。
岩間所長自らが助手席に乗り、土地勘や接客、決済方法まで丁寧に教えるそうです。

岩間「本人が『もう一人で大丈夫』と思えるまで、一緒に回りますよ」
森川「育成ノルマよりもドライバー自身を尊重し見守る。このスタイルは所長ならではですね」

自動車学校を卒業後、1ヶ月ほどで独り立ちするケースが多いといいます。
森川「”流し必須”の環境だと、慣れない新人は混乱して『もう無理』となってしまうケースも。でもここなら、心に余裕を持って経験を積めると思いますよ」

日本製鉄構内では「新人さん?じゃあ道を教えるよ」と声をかけられることもあるそうです。
岩間「本当にありがたいですよ。お客様に育てていただいている。そんな感覚ですね」

太田川駅前では、時にはタクシーよりもお客様の列が長くなることも。さらに、高齢の方の通院のお手伝いも日常的。タクシーを必要とする方が多いからこそ、新人でも”地域の一員”としての役割を実感しやすい。そんな職場だといいます。

駅や空港で。タブレットを相棒に無理なく走れる仕組み

勤務中は、配車指令への対応やナビの操作は、タブレット端末で行っているそうです。
岩間「私も最初は土地勘がなく、冷や汗をかいたこともあります。でも今は、お客様に画面をお見せしてルートを確認できるから、安心して走れますよ」

配車通知は、車両から離れていても受信できるので休憩中も安心だとか。
「労務管理専用」「配車アプリ専用」タブレットも運用されています。

森川「地域からの依頼が安定しているので、私どもの営業所では、配車アプリへの対応は特に急いでいなかったんです。ただ、既存のお客様のスマホによる依頼増加を受け、現在はDiDi(ディディ)・Uber Taxiに対応しています。今後はGOにも対応する予定です」

いずれは労務管理もすべてタブレットで行い、業務のデジタル化も進んでいるそうです。

▲出庫前は車両点検を実施。アルコールチェックや体温・血圧測定、睡眠時間も記録。万全の状態で業務スタート!

ドライバーは営業所だけでなく、駅前など所定の場所でも待機。
街の人の動きに合わせて、次の呼び出しに備えます。名鉄太田川駅前では、買い物や企業訪問などの利用が多く、夜は飲み会帰りの利用も増えるそう。

▲名鉄太田川駅前のロータリーにて

岩間「大学キャンパスの移転や商業施設の新規オープンもあり、今後は若い方の利用もさらに増えると思いますね」

(参照URL:https://www.n-fukushi.ac.jp/education/academics/social-welfare/tokai/https://forest-mall.com/swfu/d/20260119_tokaiotagawa.pdf)

▲名鉄太田川駅は、名古屋方面と中部国際空港・河和方面を結ぶターミナル駅
▲タクシー会社に関係なく、待機3番目のドライバーが扉の開閉をサポートします

中部国際空港セントレアも待機場所のひとつです。
空港では出張や観光などの利用が多く、外国人向けに翻訳アプリを駆使するベテランドライバーも。
「中国語と一口に言っても、地域が違えば北京語と広東語ではほとんど別の言語みたいですからね。翻訳アプリが本当に役立っていますよ!」そう笑顔で語ってくれました。

▲帰庫後は再度アルコールチェックをして、入金機に本日の売り上げを入金

75歳のベテランにきく、やりがいとは

名鉄太田川駅前で待機中のドライバーさんにもお話を伺いました。
「丁寧に運転して誠実に向き合う『目配り・気配り・心配り』が大事。お客さんに“また乗りたい”と思ってもらえたら、それが一番うれしいですね」

そう話すのはベテランドライバーの浅田さん(75歳・入社16年目)。穏やかな笑顔が印象的です。
「この仕事は、努力した分だけきちんと収入に返ってくる。お客様相手なので、もちろん楽なことばかりじゃないです。でも自分のペースで地道にやれば、案外、働きやすくて楽しいですよ」

▲「年金に支障が出ない範囲で働いています。頭の体操にもなりますしね(笑)」とほがらかな浅田さん。出勤は午前9時~午後3時だそう

「ありがとう」が、明日もハンドルを握る力になる―ひとことメッセージ―

「安全にお客様をお届けするのは当たり前。でも、その先にある『ありがとう』の一言が、本当に嬉しいんです」
転職後すぐにコロナ禍を経験した岩間さん。それでも続けてこられたのは、この仕事が好きだと感じる瞬間が多いからだそう。岩間さんの笑顔には、地域の足を支える誇りと、この仕事へのまっすぐな愛情がにじんでいました。

森川「興味があるけど不安な方は、一度見学にきてください。営業所の雰囲気を感じてもらえれば、きっと安心できるはずですよ」
岩間「自分で目標を決めてコツコツ働ける人が向いている職場だと思います。接客に自信がなくても大丈夫。活躍できる場がここならあります。ぜひお待ちしております」

地域の「助かった、ありがとう」を原動力に、鯱第一交通株式会社 東海営業所は、今日も安全運転で人々の日常を支えています。

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チタジョブライター
後藤春香
愛知県名古屋市出身、常滑市在住のライター。独学でWebライターとして活動を始め、現在は書籍編集アシスタントや動画編集にも少しずつ携わっています。人やモノ、地域で生まれる仕事やチャレンジの魅力を、丁寧にお伝えできるよう日々心がけています。プライベートでは、愛犬と過ごす時間が何よりの癒しです。
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