お仕事レポート

タイヤが20輪!一般道は走らない「超」特殊車両パレットキャリアカー運転士

今回お邪魔したのは、
・日鉄物流株式会社
東海市東海町五丁目3番地 名古屋製鉄所構内
・052-603-2811
・創業 1942年
・従業員数 629名(名古屋支店)

世界のインフラを支える鉄を製造する日本製鉄。その日本最大手の製鉄所内で製品を安全に、迅速かつ正確に運搬する専門の会社があります。それが日本製鉄のグループ会社である日鉄物流㈱です。

原材料である溶銑(溶けた銑鉄)をディーゼル機関車で工場へ運んだり、製品を大型船へ岸壁クレーンで積み込んだり、何トンという大型重量物の海上輸送、陸上輸送、港湾物流、製鉄所内輸送を担う“輸送”に特化した会社です。

今回はそのひとつであるパレットキャリアカーの運転士・立山さん(40代/入社7年目)に仕事の魅力についてお話を伺いました。

一般道は走行しない!「超」特殊車両・パレットキャリアカーとは

キャリアカーと聞いて思い浮かぶのは車両を運ぶ “車両積載車”が一般的ですが、日鉄構内で扱うキャリアカーは「パレットキャリアカー」といい、見た目も性能も全く異なる大型特殊車両です。

全長は13m、20輪のタイヤを備え、最大積載量は100tを誇る重量物輸送に特化した車両なので、一般道で見かけることはまずありません。

特長は、車体に昇降機能があり操作一つで車体と輸送に用いるパレットとの分離ができること。

パレットキャリアカー(パレット積載前)
パレットキャリアカー(パレット積載時)

上部全体が荷台になっているので運転席は地面スレスレの高さにあり、走行は原則前進のみと決まっているため、前方後方それぞれに運転席が設けられています。

走行速度は15~20㎞/時 とゆっくりめですが、構内では走行が最優先される車両です。

「私たちの仕事はこの特殊車両を運転して荷役をすることです。製造しているものがとにかく大きくて重いものばかりなので、たとえ数m先に動かすだけでもこのキャリアカーの力が必要なんです。」

日鉄構内を動き回るパレットキャリアカーの一日

日鉄物流が保有するパレットキャリアカー(以下キャリアカー)は全部で19台。24時間365日稼働する製鉄所に対応するため、月点検車を除いた13~14台が常時出動しています。

作業の指揮を執るのは管制室。稼働中のキャリアカーの位置情報や作業の進捗を把握し、「何をどこへ運ぶのか」という指示を一番適した車両へ出していきます。いうなればタクシーのような仕組み。

「構内には1000か所のスポット(置き場)があるので運ぶものも運び先も毎回異なります。1件あたりの作業時間も5分で済むものから長くかかるものまで様々です。」

運転席にはタブレットがあり作業指示が表示される

さらにその1000か所は、建物の構造や障害物の有無などにより進入経路や確認項目がそれぞれこと細かく決まっているそうで、以前は作業者全員がこの膨大なルールを覚えないといけなかったんだとか。

「ただ僕の入社年に各車両にナビゲーションシステムが導入されたので、経路はマップで表示されるし、スポットごとの確認事項もリスト化されるようになりました。可視化によって誰でも正確に作業ができるので、その点は安心ですね。」

システム導入で作業員の負荷はかなり軽減されたそう

大型車とも異なる未知の感覚。特殊と呼ばれる理由

「大型トラックともまったく違う“独特の感覚”があるのがキャリアカーの運転です。」

運転士にとって最も重要なのは、やはり高度な運転技術。キャリアカーの運転は「技能蓄積型」であり、経験を重ねるほど技術が磨かれ、安全で正確な運行ができるようになるのだそう。こうした点がキャリアカーが“特殊”といわれる理由です。

入社時は普通免許しか持っていなかったという立山さん

「僕も初めて運転した時は混乱しました。普通車と違って駆動輪である前輪と後輪は真逆に作用するんです。ハンドルを右に切れば前輪は右を向くけど、後輪は左を向く。真ん中を軸に回転する形になるので、例えば車の感覚で曲がると位置が3mもズレるんです。」

右を向く前輪と左を向く後輪

このクセのある軌道を考慮してパレットの下へ車体を入れるのが最初の関門。

「輸送に使うパレットは、車幅に対し左右拳1個ずつの余裕しかないため、進入角度が少しでも斜めになっていると側面が当たってしまいます。パレットに対しまっすぐ進入させるって難しいんです。」

パレットに対し車体はまっすぐ!
直前にはサイドミラーも閉じて進入

左右拳1個分でピッタピタ!まさに職人技

たとえ斜めになっても何度か切り返せばいいのでは?と思うかもしれませんが、キャリアカーにはそれが出来ないのだそう。

「車両特性上、角度の微調整ができません。もしパレットに対し車体が曲がっていたらもう一度離れて最初からやり直しです。」

他にもサイドミラーは長い車体が映るよう湾曲させているため距離感や遠近感が普通車とは全く異なるそうで、車両停止用の白枠線に停める時にも車両感覚を惑わす。

経験者の感覚を狂わせるクセ強な湾曲ミラー

「このミラーの歪みにはかなり苦戦させられました。ぴったり停められたと思って降りたら車体が曲がっていたり、何㎝もずれていたり、最初の頃は何度もやり直しましたね。」

加えてパレットを積載すれば車幅は変わるし、そのパレットの種類も30種あるという。

「運転に関しては、大型車や特殊車両の運転経験者も頭を抱えてきましたね。特殊なのでみんなできなくて当たり前で、そこからどれだけ上達するかは練習あるのみなんです。条件が多くて難しいけど、その分攻略したときは嬉しさもひとしおです。」

「それにこれだけ大きな特殊車両を自在に操れるのは楽しいですし、やりがいもあります。製鉄所内の何千という人が携わった製品を最後に見送るのは私達なんです。大型船へ積載が終わった時は達成感を感じますよ。」

未経験から特殊車両の運転士を育てる社内の教育制度

そんな特殊な技術だからこそ、会社としても新人教育に精査を重ねているのだそう。

「まず最初は広い場所で指導員と共にキャリアカーに乗り車両感覚を身に付けます。そこからパレットを追加して…と実作業に近い状態へスキルアップを目指します。実際に構内へ出てもしばらくは指導員と二人三脚で行動して、対応力を習得していく形です。」

どこの現場作業にも先輩指導員がつくものですが、日鉄物流ではその教える側にも「指導員の心得教育」が行われ、知識や技術テスト、面接をクリア出来た者だけが指導を認められる。これは熟練技術者が培ってきたスキルや技術を、平等に技術伝承するために考えられた制度なんだとか。

「新人の状況は指導員同士で共有しているので、指導方針も相談しながら決めていきます。苦手や難所の攻略法をベテラン勢で案を出し合うんですね。今も7人の新人が配属されていますが、部署全体で成長を見守っています。」

一生の仕事にしたい、ライフステージを考えて選んだ会社

実は前職が営業職だったという立山さん。そこからキャリアカー運転士を目指した経緯はなんだったのでしょうか。

「以前は住宅関係というのもあって休みは平日の週1日で、家族とはすれ違いの生活でした。だから子どもが小学校に上がるタイミングで“生活リズム”を意識して転職をしたんです。3交替制ですがシフトが決まっているし、残業も少なく有給も取りやすいのが魅力でした。」

キャリアカーの運転士志望者には意外にも元美容師や料理人などサービス業からの転職者が多いそう。

「簡単に代わりがきく仕事ではないのもあって、会社では定年まで腰を据えて働ける環境づくりを進めています。僕は30半ばで転職してきましたが、独身の人も結婚したり子育て中の人も、ライフステージに合わせて様々な福利厚生があって心強いです。」

日本製鉄グループという大企業の恩恵をしっかり受けつつも、会社独自の制度を整えているという日鉄物流。

習得に長い時間のかかる「超」特殊車両の運転技術は、作業環境だけでなく将来を見据えたバックアップ体制に守られているのでした。

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チタジョブライター
竹内恵子
半田中央印刷所属のライター。愛知淑徳大学の表現文化専攻を経て、大好きな“綴ること”を仕事にしています。思い立ったが吉日の行動派で、好きなことには諸突猛進タイプ。普段は子ども 2 人の育児にテンテコマイな母です。
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